シリコン光回路とコバルト金属を組み合わせた超小型ヒータ~光集積回路の高密度化?高速化?高機能化に向けて~

シリコン光回路とコバルト金属を組み合わせた超小型ヒータ
~光集積回路の高密度化?高速化?高機能化に向けて~

 国立大学法人11人足球网大学院工学府電気電子工学専攻の太田那菜(博士前期課程1年、卓越大学院所属)、同大学院工学府産業技術専攻の宮内智弘(2021年3月専門職修士過程修了)、同大学院工学研究院先端電気電子部門の清水大雅准教授は、遷移金属のCo(コバルト)を積層したSi(シリコン)光導波路(Siプラズモニック導波路)に光が到達し、吸収された光が発熱する際の温度上昇を金属の抵抗の変化を測定することにより明らかにしました。クラス3Rのレーザポインターの出力と同等の6.3 ミリワットの光を入力したときに、長さ8マイクロメートル、幅0.4マイクロメートルの領域の温度が最大で243℃ に達する局所加熱ヒータを実現し、これまで報告された温度を上回りました。電子回路の配線を光化した光配線や光集積回路において必須となる超小型の光スイッチとその高密度化、光の強弱の情報を一時的に記憶する光メモリの実現に向けて有望な研究成果です。また、バイオテクノロジー、化学などの分野におけるlab-on-a-chipやオンチップ光センサなどのへの応用も期待されます。

本研究成果は、Sensors誌(2021年10月6日付)に掲載されました。
論文名:221 K Local Photothermal Heating in a Si Plasmonic Waveguide Loaded with a Co Thin Film
DOI: 10.3390/s21196634
URL: https://www.mdpi.com/1424-8220/21/19/6634

現状
 近年の情報通信技術の発達やデジタル化、クラウドサービスの進展により、情報通信のさらなる高速化が求められています。光ファイバを用いた光通信によって長距離で高速な情報伝達が可能となっています。一方で信号を送受信するための電子回路やその周辺機器では、電気配線による情報伝送速度が限界近くに達しており、更なる高速化のため、配線を光化する光配線や光集積回路の実現が求められています。しかしながら現状では、光信号のオンとオフを切り替えるために電気信号が用いられていること、電気回路でコンデンサの役割を果たすメモリ素子が光回路で実現していないこと、電気配線による大規模集積回路で使われている素子よりも小さい光素子をいかにして実現するかが大きな課題となっています。電気信号を用いる代わりに、光信号が光回路と金属の界面で吸収される際の発熱と温度上昇によって光信号をオンとオフで切り替えたり、材料の状態を変えたりすることが提案されています。発熱領域が千分の一ミリ四方程度と小さいため、発熱と温度上昇を正確に測定することが困難でした。

研究体制
 本研究は、11人足球网大学院工学府電気電子工学専攻の太田那菜さん、産業技術専攻の宮内智弘さん(2021年3月修了)、工学研究院先端電気電子部門の清水大雅准教授が実施しました。宮内智弘さんの研究は、工学研究院先端情報科学部門の並木美太郎教授の指導のもとで行われ、本研究が社会に応用されるための事業可能性、実行可能性について議論しました。本研究の試料作製には、学内共用設備である電子線描画装置(日本電子(株) JEOL JBX-6300)等を利用しました。本研究の一部は日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B)(一般)(16H04346)の支援により行われました。

研究成果
 SOI基板(注1)の上に幅0.4マイクロメートル(注2)、高さ0.25マイクロメートルの微細な構造を長さ3.5ミリメートルにわたって形成し、SiとSiO? や空気からなる光導波路(注3)を作製しました。光導波路の中央部分に長さ8マイクロメートルにわたって厚さ0.2マイクロメートルのCo金属を製膜し、Siプラズモニック導波路(注4)を作製しました。Co金属の両側から電気抵抗を測定できるように電極を形成しました(図1、2)。光導波路に波長1.55マイクロメートルのレーザの光を入射し、電気抵抗の変化から温度上昇を見積もりました。Coの電気抵抗の変化が入力したレーザの強度の変化に比例して大きくなることを観測しました。実験に先立って測定したCoの電気抵抗の温度依存性を考慮すると、Co金属が製膜されたSi光導波路部分の局所的な温度は、レーザ光の強度が6.3ミリワットの時に243℃ となることがわかりました。これまでの研究と比較して、温度上昇を正確に見積もることができました。得られた温度は、光ディスクに用いられる相変化材料の一つであるGe?Sb?Te?(GST)や、光磁気ディスクにおいて情報を書き込む際に必要とされる温度を超えるものです。
 
今後の展開
 Si, SiO? , Coの界面には1マイクロメートル以下の小さい領域に光を閉じ込めることができます。Siを伝搬する光がCoに到達したときの相互作用をより大きくすることで、光熱変換効率の向上と更なる小型化(1マイクロメートル以下),より高い温度への昇温と高密度化を目指します。また、昇温?降温速度を評価し、高速動作に適した素子構造を実現します。電気信号によらずに光信号の強弱を制御する光スイッチや、強磁性金属や相変化材料等を加熱し、光信号を記憶するメモリを実現します。AI、バイオテクノロジー、化学など様々な分野との協業により、書き換え可能な光演算回路への搭載とAIチップへの応用、lab-on-a-chip(注5)における加熱機構の付加やオンチップ光センサ(注6)への応用を目指します。

用語解説
注1) SOI基板
SOIはSi on Insulatorの略である。土台となる厚さ625マイクロメートルのSi基板、厚さ3マイクロメートルのSiO? 、厚さ0.25マイクロメートルのSiからなる基板である。

注2) マイクロメートル
1ミリメートルの千分の1の長さ

注3) 光導波路
屈折率の異なる2つ以上の媒質から形成された積層構造において、屈折率の大きな媒質から小さな媒質に光が斜めに入射する際の全反射(光の反射率が1となること)を利用して、屈折率の大きな媒質の中に光を閉じ込めて伝搬(導波)させる光の通り道を光導波路とよぶ。二つの媒質の屈折率の差が大きい方が光を閉じ込める性質が強くなるため、石英(SiO? )光ファイバに用いられている屈折率差よりも大きな屈折率差をもたらずSiとSiO? を組み合わせることで、1マイクロメートル以下の領域に光を閉じ込めて伝搬させることができる。

注4) Siプラズモニック導波路
コバルトや金のような金属とシリコンやSiO? 等の誘電体の界面において、金属の中の自由電子の振動と電磁波(光)の電界や磁界の振動が結びついて光が伝搬することを伝搬型表面プラズモンと呼ぶ。光が伝搬する際に、媒質の屈折率の差を利用していないため、光導波路を伝搬する際に、回折の影響を受けず、様々な光デバイスにおいて小型化に貢献すると期待されている。金属がもつ電気抵抗によってしだいに自由電子の振動が減衰する際、ジュール熱に変換される。

注5) lab-on-a-chip
化学実験における混合、反応、分離、検出の機能を微小なチップ上に実現した素子。

注6) オンチップ光センサ
微小なチップの上で、ガス分子の濃度や吸着の様子、水溶液中のたんぱく質の濃度を光の伝搬や発光を通して検出するセンサ。

図1:SOI基板上に作製したヒータの概要
図2:(左)Si光導波路の一部にCoと電気抵抗を測定するための電極を形成したヒータ、(右)Si光導波路に沿って8マイクロメートルの長さにわたってCoを形成した発熱領域の光学顕微鏡写真

◆研究に関する問い合わせ◆
 11人足球网大学院工学研究院
 先端電気電子部門 准教授
  清水 大雅(しみず ひろまさ)
?   TEL/FAX:042-388-7996 / 042-388-7795
? ? ? E-mail:h-shmz(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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